No.28 : 無線通信は UWB から始まった

2011年9月12日 up

    UWBというのをご存知でしょうか。Ultra Wide Bandの略で、超広帯域無線とも呼ばれています。典型的な送信方法としては、極めて幅の短いインパルス信号を直接アンテナから出すというもので、 基本的に送信周波数という概念がありません。(現実問題としての規制があるのでフィルタで特定の周波数帯に収まるようにします)デジタル情報は、いくつかのパルスの組合せの位置(パルス間の位置関係)に乗せます。 つまり、パルス位置変調ですね。

    他システムとの干渉が少なく、超低消費電力で通信できるというキャッチフレーズで無線の研究開発の世界では10年ほど前に一躍脚光を浴びました。その後、ARIBの標準規格ではARIB STD-T91、IEEEの標準規格ではIEEE802.15.4aとして、 このUWB通信方式のシステム標準化がなされました。

    ただ、他システムへの干渉軽減機能の搭載を義務たり、IEEEでの高速通信の標準化に失敗したりで、UWBシステムの今後の雲行きがちょっと怪しいことは確かです。しかし、通信機器の動作が単純で安価にできる可能性があることや、 インパルスによる正確な位置測定とかができるメリット等もあるので、今後も何らかの発展が見込めることと思います。

    ところで、無線通信の初期システムが、実はこのUWB通信と基本的に同じ通信方式だったことはご存知でしょうか。世界初の実用的無線通信機器は、1895年頃にイタリア出身のマルコーニが発明したと言われています。マルコーニは、 イギリスに在住した親戚の援助もあって、イギリスでマルコーニ無線会社を運営し、主として船舶向けの無線機器販売および通信事業者として成功をおさめます。有名なタイタニック号の事件でもマルコーニの会社の無線機が使われていました。 そのマルコーニ無線会社の初期の無線通信機器は火花放電式というもので、モールス符号に合わせて電鍵操作で電波送信のON/OFFをするのですが、ONの間は高圧をかけた極めて狭い電極ギャップ間に火花放電を連続させていました。 火花放電を連続して作り出す装置の原理は、基本的に車のエンジンのスパークプラグで連続的に火花を飛ばすのと全く同じものです。 火花放電は、原理的に極めて幅の狭いインパルス信号ですから、その電極の片方をアースに、他の片方をアンテナに接続すれば、超広帯域の電波がアンテナから輻射されます。受信機側も特に周波数の同調回路は無く、 受信アンテナからの信号を直接コヒーラという検波器に入れて、電波があればコヒーラがONとなり、自動でコヒーラをOFFに戻して次の電波でまたONにするというものでした。

    つまり、初期のマルコーニ無線会社の無線通信機器は送信周波数という概念のない、超広帯域通信のUWB無線機でした。ただ、現実的には長い線を張り巡らしたアンテナ自体の共振周波数があったはずなので、 その共振周波数の成分が大きく、エネルギー的にはその周波数近傍が大半を占めていたのかも知れません。しかしマルコーニ自身も、初期には送信周波数という概念なしに無線機をつくっていたのかも知れませんね。

    ちなみにこれと同じタイプの火花式無線機は、日本でも1905年の日露戦争時の有名な「敵艦見ゆ」という信濃丸からの信号発信に使われ、東郷平八郎率いる日本の艦隊がロシアのバルチック艦隊を撃破するに至った という有名なエピソードに出てきます。当時、東郷が乗っていた艦隊の旗艦が戦艦三笠で、横須賀市の三笠公園内に当時の面影を残して展示されています。 もちろん、火花式無線通信機の復元モデルも展示されていますので、是非とも見に行ってください。(明治36年に日本で作られた型なので、三六式無線通信機と言うそうです) 余談ですが、そこの売店で「東郷ビール」というのも販売されていますので、ビール好きの方もどうぞ。幸い、私は無線もビールもどちらも大好きです。