No.16 : スペクトラムアナライザ

2010年3月1日 up

    無線機器を設計したり使用したりする仕事をしていると、色々な測定器を使います。その中で群を抜いて一番多く使う測定器が、スペクトラムアナライザ(スペアナ)です。

    この測定器は、電波信号を可視化するもので、横軸が周波数で縦軸が強度(電力値)であるグラフを画面上に描くものです。GHzオーダーの高周波になると、オシロスコープで信号波形を観測することはもはや不可能なので、スペアナは そのような高周波信号を可視化できる唯一の測定器です。オーディオ帯の周波数では古くからFFTアナライザという同様の機能を持つ測定器がありましたが、GHz帯の高周波では実現が難しいです。(一旦低い周波数に変換してからFFTするタイプのスペアナも最近出てきましたが)

    30年くらい前までは、もちろん、完全にアナログ回路の塊で非常に重たいものでした。今はもう生産していないであろうと思われるブラウン管上に1本の線が 出てくるだけのものでしたが、ちょうど私が研究所に就職した年にヒューレットパッカード社(現在のアジレントテクノロジー社)が画期的なスペアナの新製品を世に出しました。HP-8566Aというスペアナで、それまでの周波数の読取精度も おぼつかない頼りないアナログスペアナではなく、フルデジタル方式で(測定値を全てA/D変換してメモリに蓄えてからCPUで制御して画面に表示するタイプ)画面こそモノクロブラウン管ではありましたが、測定値や設定値とかが全て文字表示 されるものでした。それまでの測定器の表示部分はアナログメータかオシロスコープのブラウン管に1本の線だけというものでしたから、それはもう、測定器の常識を覆し、関係者をあっと言わせるようなインパクトがありました。 ただし、値段も超一流で、当時では郊外で新築一戸建ての土地付き住宅が買えるほどの値段だったと思います。重さも超級で、30kg以上あったのではないかと思います。

    私が就職して半年ほど経った頃に、その新鋭測定器が研究室にやってきたのですが、HPの営業の人が日本で3台目ですよと教えてくれました。第1号機はNTT(当時は電電公社)へ納入されたそうです(2台目は知りません)。 それからは、私の無線の実践的知識の吸収は、常にHP-8566Aと共にあったといっても過言ではありません。もう、それこそ毎日のように新鋭測定器を使い続けました。 数年間、殆んど私一人で独占していたのでHPの技術者よりも操作法は詳しくなったのではないかと思います。マーカーで指定した周波数での雑音密度(No)が直接測定できたので、無線通信では最も重要な受信品質の指標であるC/Noが簡単に 測定できたのが一番ありがたいことでした。しかも、単体で22GHzまでの周波数が扱えるのです。周波数カウンタの役目も電力計の役目も何でもできるので、これとSG(標準信号発生器)があれば、RF関係の測定のほとんどはこなせました。

    個人事業で細々としたビジネスを営んでいると、スペアナなど高嶺の花だったのですが、ここ数年でバッテリ駆動の安価なポータブルスペアナがいくつか出だしたので、 一念発起してスペアナを注文しました。ポータブルとは言え、占有帯域幅や隣接チャネル漏洩電力も直接測定できるし、付属のアンテナを付ければ校正された電界強度も測れるし、近傍の位相雑音や周波数分解能はHP-8566Aには遠く及ばない ものの、カラー表示で使える機能はHP-8566Aを凌ぐくらい満載しています。 それでいて重さはバッテリを入れても2kg以下です。30年間のデバイス技術の進歩を実感しました。

スペアナもこんな風に使える時代になりました